企業価値評価について

企業価値評価には大きく3つある。マーケットアプローチ、インカムアプローチ、コストアプローチである。これらを順に解説していく。

①マーケットアプローチ

これは対象企業と類似の上場企業データを集めて、類似企業の事業価値/EBITDA倍率や、PER、PBR、PSR等の平均値・中央値を算出し、その指標に対象企業の数値を乗じて事業価値を算出する手法である。大きく、株価倍率法と類似取引比準法がある。株価倍率法は上述したような指標を用いて算出する。類似取引比準法は、類似のM&A案件における譲渡対価/売上高倍率等を算出し、対象企業の数値に乗じて譲渡対価を導く、といったものである。

収益が出ている企業であればEBITDA倍率やPERを使うのが一般的だが、ベンチャー企業や再生企業においてはEBITDAがマイナスであるケースが多いため、PSR(事業価値/売上高)等を使用するケースがある。

この手法は類似企業の選定がポイントである。というより、それですべて決まるといっても良い。一般的には類似企業の社数は5~10社程度が目安である。その平均値や中央値を使用するのだが、極端な異常値となっているものについては、除外する必要がある。

②インカムアプローチ

ここでは代表的な手法であるDCF法について記載する。DCF法は分配可能な将来キャッシュ・フローをWACC(加重平均資本コスト)で現在価値に割り戻すことで事業価値を算出する手法である。事業価値の算出する順序としては以下の通り。

  • 会社の事業計画に基づく将来のフリー・キャッシュフローの算定
  • 残存価値(Terminal Value)の算定
  • 割引率の算定
  • 将来各年度のFCF・残存価値の割引現在価値の算定

まず将来キャッシュフローについてだが、3~5年の将来事業計画を策定し、それに基づいてFCFを試算することが一般的である。将来事業計画そのものの妥当性の検証が極めて重要だが、本記事ではそこには触れない。たいていの事業計画はPLベースで作られているので、営業利益を出発点とし、法人税、減価償却費、設備投資、運転資本の増減を加味してFCFを算出する

つぎに残存価値の算定であるが、これは計画最終年度のFCFを割引率から継続成長率を控除した数値で割り戻すことで算出する。ただ継続成長率とは、事業計画期間終了後に、永久に継続して成長する指標であるため、その合理的な算出は難しいため、ゼロとするケースも多い。

割引率の算出は、CAPMモデルをもとに行う。負債コストと株主資本コストをもとめ、それぞれ構成比率を乗じて算出する。負債コストは支払利息を平均有利子負債残高で割り、そこから税効果を控除して算出する。例えば平均支払い利率が2%、実効税率が40%だった場合、負債コストは1.2%となる。株主資本コストの算出は、リスクフリーレート+(エクイティリスクプレミアム×ベータ)+固有のリスクプレミアムで算出する。

リスクフリーレートとはリスクをほとんど負うことなく得られる利回りのことで、日本においては10年物国債の利回りを使用することが多い。エクイティリスクプレミアムは、仮に投資家が株式市場全体に投資する場合、リスクフリーレートに加算して期待する利回りのことである。これは4~6%くらいの数値が使用されるケースが多い。

ベータとは、対象企業への株式の投資が、株式市場全体への投資と比較して、どれだけのリスク(ボラティリティ)があるのかを示す係数である。仮にベータが1.5であれば、株式市場全体の変動率が5%のとき、対象企業の変動は7.5%になる、という意味である。ベータの算出においては、対象企業が上場会社の場合であれば、ブルームバーグ等の評価サイトから対象会社のベータを確認して使用することが多い。対象会社が非上場の場合は、類似上場企業のベータの平均値を使用する。この類似企業のベータについては、少々処理が必要である。そもそもベータとは、事業リスクと財務リスクから構成されている。事業そのものの不確実性と、その企業の財務状態による固有の財務リスクが考慮されているのである。類似企業のベータを使用する際は、事業リスクのみを反映したベータを算出し、そこに対象企業固有の財務リスクを反映する必要があるのである。(なお、事業・財務リスクを含んだ通常のベータをレバードベータ、事業リスクのみを含んだベータをアンレバードベータと呼ぶ)

固有のリスクプレミアムとは、非流動性ディスカウント等がよく使用される。ようは非上場企業は流通性に乏しいため、その点を考慮するというものである。

こうして算出した割引率をもって、FCFを割り戻すことによって割引現在価値を算出し、それらを加算することで事業価値を算出するのがDCF法である。

③コストアプローチ

これは修正純資産法、時価純資産法といわれる。両者の言葉の定義に明確な違いはない。資産・負債を再調達原価あるいは早期処分価格ベースに修正し、修正後の純資産をもって株式価値とする方法である。

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