事業再生のポイントについて記載する。ポイントは大きく4つある。
- 原因分析
- 施策検討
- マネジメントによるリーダーシップ
- モニタリング
①原因分析
実態把握はクイックレビュー、事業・財務デューデリジェンスによって行う。調べる目的としては、「この企業・事業の利益の源泉は何か」、「本業でキャッシュ・フローを生み出せているのか」、「赤字に陥った原因は何か」、「赤字に陥った原因を除去するためには何が必要か」などである。
調べるためにはヒアリングとデータ分析を行うことになる。ヒアリングについては経営者や幹部社員はもちろんのこと、ミドルマネジメントクラスや場合によっては若手社員も対象とする。経営層クラスからのヒアリングだけでは、会社を一面的にしか見ることができない。そもそも窮境に陥った責任は経営者にあるのだから、その経営者のいうことだけを鵜呑みにしてはならない。様々な角度から色眼鏡なく企業を見るためにも、可能な限り幅広い人材にヒアリングを行うことが望ましい。
データ分析については、試算表や総勘定元帳、基幹システムの販売・仕入れ・在庫データ、給与台帳データなどをもとに分析を行う。主な分析としては得意先・製品群別の利益分析や、売り上げ構成をみるためのパーレート分析、あとは製造業であれば時間あたり生産数量や歩留まり率を確認する。ここでの論点は、そもそもデータがないケースである。窮境に陥る企業というのはおおむねデータがそろっていない。分析に必要なデータがそもそも社内に存在しない。どんな経営者であっても、製品別の利益が赤字であったならば、何らかの対策は考える。赤字が常態化している企業というのは、そもそもデータがなく、赤字なのかどうか、何なら何が儲かっているのかさえ、よくわかっていないのである。よって事業再生コンサルタントは、まずはこのデータの整備から入ることが多い。この傾向は企業規模が小さくなるにつれて顕著であり、いわゆる社長の奥さんが一人で経理総務人事を回しているようなサイズの企業であれば、まずたいていの場合、データがないだろう。あってもぐちゃぐちゃのExcelデータだけだ。そんなことなので、事業再生コンサルタントはまずデータの整備・クレンジングを行い、アイテムごとの利益の見える化を行う。これをしなければ、何が理由で赤字になっているのかがさっぱりわからないので、マストの分析といえる。ちなみにこれは、金融機関も特に気にしている情報なので、整理すると彼らも喜ぶことが多い。
ここまでの話はいわゆる「内部環境」分析が中心だった。ここから先は「外部環境」の話に移る。外部環境分析としては、主には市場動向の調査や、消費者動向の調査、競合企業の調査があげられる。市場動向の調査とは、ようは対象事業が属するマーケットが成長しているのか、衰退しているのか、である。よく使われるのは3C分析やPEST分析だろう。消費者動向の調査もほとんど同様である。競合企業の調査は、例えば帝国データバンクなどから競合企業の財務データをもってきて、営業利益や要償還債務の返済年数や、一人あたり売上高、EBITDAなどと事業内容を比較し、いわゆる「勝ち組」企業と、対象会社のような「負け組」企業にはどんな違いがあるのかを分析するのである。これは対象企業の社長に結構喜ばれる。なんでそんなことも知らないんだよ、と突っ込みたくはなる。この分析を行えば、どの費用を削るべきなのか、人員削減はどの程度必要なのか、何が競合他社と比べて劣っているのか、が見えてくる。逆にこの分析をしないと、どんな目線をもって費用削減をすればいいのか、何は残して何は削るべきなのか、といった目線が曖昧になるため、これもマストでやったほうがいいだろう。ちなみに往々にして、適切な競合企業を見つけられないケースがある。あとは帝国データバンクなどに情報開示していないケースもあるだろう。そういった際には、もっと大きなくくりで、対象企業が属する企業群の平均利益率等を物差しとすることが多い。具体的には、業種別審査辞典などに記載された数値である。
②施策検討
何が原因で赤字なのか、が分かれば、大まかに窮境要因が分かってくる。そして、打ち手も見えては来る。具体的な施策検討、とくにトップラインを上げるような、クリエイティブ要素が求められる施策については対象企業に検討してもらうことが多い。ただ、こうした増収施策は実現可能性を担保することが困難であるため、施策に反映するにしても限定的なる。
代表的な施策例としては下記の通り(あくまで企業が自助努力でできる施策である)
- 遊休不動産の売却
- 事業用不動産の売却と代替テナントへの移転
- 有価証券の売却(ゴルフ会員権など)
- 人員削減
- 役員報酬の削減
- その他の固定費削減
- 主要原材料等のサプライヤー見直しによる経費削減
- 利益の出ている子会社の売却
基本的には経費削減施策になる。夢も希望もない話なのだが、蓋然性の乏しい施策を再生計画に織り込むことはできないし、やらないほうがいい。なぜなら、仮に再生計画が未達だった場合、金融機関から厳しい追及を受け、場合によってはさらなる抜本的な再建手法(法的整理など)を余儀なくされるからである。また対象企業からすると、施策は弱めに積んでおくほうがメリットがあるケースもある。リスケジュール以上の金融支援を検討する場合、基本的には金融機関が借入金の弁済順位を下げるか(DDS)、そもそも借入金を実質的にカットするか(直接債権放棄、第二会社方式、DES)といった選択がとられるが、その支援額というのは、対象企業が自助努力によって返済できる返済金額累計と、借入金残高(正確には借入金残高から保全額を除いた非保全残高)の差額となるからである。つまり、自助努力によって返済できるとみなされた金額が大きければ大きいほど、金融機関からの支援額は減ってしまうのである。
ただ、金融機関からすると、なんでもかんでも債権放棄するわけにはいかない。そんなことをすれば他の貸付先から「うちも債権放棄してくれよ」と声が上がるし、金融機関の体力もそんなにはない。あと、事務手続きが大変というくだらない理由もある。私が関与した案件の多くでは、最初から金融支援の程度が決まっていたように思う。そういった案件において施策を弱く積みすぎて、リスケジュールでは私的整理の合実・実抜の数値基準(経常利益の黒字化3年、債務超過解消年数5年、要償還債務返済年数10年)を満たせなかった場合、各金融機関がDDSにも踏み切れず、まして債権放棄も出来ない、となると私的整理の計画として成立しないことになりかねない。そうなるとリスケという支援すら受けることが出来ず、企業は法的整理の可能性すら、視野に入れなくてはならなくなる。リスケはある意味、「様子見」の支援である。よって現実的には、蓋然性の高い経費削減施策を主たる施策としつつ、若干夢のある増収施策についてもある程度おりこみ、計画とする、というケースが殆どだろう。
そのほか、施策検討におけるポイントについて記載する。
1つめは、聖域をもうけない、ということである。「この事業は創業者の思い入れが強いから・・・」といった聖域を許容してしまうと再建施策の検討は遅々として進まない。金融支援さえ必要のないフェーズであればそれでも良いかもしれないが、そうでない場合は、バッドシナリオを見せて現状を理解させることも必要だろう。例えば、今ならばリスケジュール程度の支援で済むため経営者個人の保証債務の履行は求められないが、債権放棄等になってくれば保証債務の履行は必ず必要となり、場合によっては個人破産、よくて経営者保証ガイドラインの適用によって自宅と120万円程度が守られるだけで、ほとんどの個人財産が消滅する、などである。こうした苦言を呈することも、金融機関から事業再生アドバイザーに期待されている役割である。なぜ債権者たるメインバンクが言わないのか、と疑問にも思うが、彼らはそんな厳しいことを言って、自分の頭越しに上司にクレームを入れられたり、金融庁に報告するぞ、とか脅かされるのを恐れているようである。サラリーマンなのだから仕方ない。実際私の関与した案件においても、私のような事業再生アドバイザーの前では意気揚々と対象企業の不満をぶちまけるにも関わらず、対象企業の社長の前になると借りてきたネコちゃんになる銀行員の方がたくさんいた。勿論、そうではなく、厳しくも愛のある方もたくさんいた。
2つめは、施策検討チームの組成方法についてである。単なる不動産売却などとは違い、営業推進等の施策を検討する場合においては従業員の方の協力が欠かせない。そんなときに社長のトップダウンによってのみ施策を考えてしまうと、やらされ感が出てきてしまい停滞しがちである。一方で従業員主体のボトムアップ型で実施すると、今後は自分の所属する部署・立場での狭い視野の意見しか出てこない。よって、いわゆるクロスファンクショナルチームと呼ばれる、さまざまな部署・立場からなるチームを組成して、検討するのが良い、と一般的にはされている。私個人の考え方ではあるが、この方法は確かに有効ではあるが、どちらかと大企業向けではないか、と思う。従業員100人にも満たないような企業でチームを立ち上げても、日常業務に支障をきたさない範囲で行うことが出来るのか、と思うのと、あとは社長以外にファシリテートできる人材がいるのか、も疑問である。そもそも社長が、皆の意見を吸い上げて昇華するといった芸当ができるのか、という疑問もある。じゃあどうするのかというと、中小企業の再生の現場において、特に計画策定期間中は、事業再生アドバイザーが疑似的なターンアラウンドマネージャーロールを行うケースが多いと感じる。社長は高齢で元気もなく事業意欲もそんなに高くない、従業員は十分な社内教育を施されておらず主体性にかける、そんな中で事業再生アドバイザーが、ただ皆のいうことをふんふんと聞いて、それをそのまま落とし込むだけで事業再生計画が作れるのか、というとそんな訳がないのである。難しいところではあるが、アドバイザーという本分を超え、自分が社長になったような想いで、債務者企業に向き合うことが、求められるケースが多いと思う。
③マネジメントによるリーダーシップ
当然のことだが、どんなに立派な再建計画を策定したとしても、実行されなければ意味がない。そして、世の中にあるほとんどの計画は、きちんと実行されていない。我々再生アドバイザーが作った計画を、一番何回も読み返してくれるのは金融機関だろう。多分対象企業はほとんど読んでくれない、気がしている。そんな計画書をつくるアドバイザーの責任だろうと言われれば返す言葉もない。しかし金融機関から支援を引き出す、という視点がどうしても大きいため、文字と数字が細かくびっしりと書かれた、読むだけでめまいがしてくる資料になってしまいがちなのだ。
さて無事に計画が認可されたとして、実際に実行するには強いリーダーシップが必要である。そして、再生企業にそんな強いリーダーシップを発揮できる人間はほとんどいない。なので、外部からプロ経営者やターンアラウンドマネージャーを招聘し、再建にあたるのが定石とされている。しかしこれまた、中小企業には当てはまらない事例である。そもそもプロ経営者水準の報酬を払えるような財務体力はない。できてせいぜい株式報酬位だろうが、どん底の企業の株式をもらって奮起する方は、世の中にそう多くはないだろう。ファンド案件であれば、よくファンドが招聘した経営者や、ファンド内のチームが経営支援を担うが、これは非常に幸運なケースだろう。
よって、現実的にはリスケジュール程度の支援の場合、たいていは経営者が残留する。これでよくなるはずがないから、せめてケツを叩くためにと、次に説明するモニタリング工程が存在する。
④モニタリング
③の通り、経営悪化の元凶ともいえる経営者を残しておいたとて、経営が良くなる可能性は低い。仮にそうでなくプロ経営者を招いたとしても、金融機関からすれば業績がどうなのか、立案したアクションプランをちゃんとやっているのか、それは気になって当然である。よって、計画認可後は進捗確認のために、毎月もしくは四半期に一度、モニタリング会議というものを実施する。ここで目標を達成していればみんなハッピーだが、そうでない場合は苦しい。たいていの場合は再建計画を作ったアドバイザーがモニタリング担当として張り付いており、月次の未達要因分析をやっている。その時、計画策定時に明らかにストレッチしすぎた施策を織り込んでいたことに気づいて、頭を抱えるというのがお決まりのパターンである。
とまあ、好き勝手に書いてみた。ご意見のある方はぜひコメントいただきたく存じます。
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